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Toggleサスティナブルな暮らしというジャンルに根を張って、地域おこし協力隊として生活している人や農業を生業として夢を叶えようとしている人がいる。「会社員ではない」彼らは何を目指し、どのように生計を立てていくのか? 地域おこし協力隊を応援するSHIMABLOがその暮らしと情熱を発信する連載の第1回。
−2020年7月某日
今回お話を伺ったのは2019年2月から仁木町でオーガニックワイン作りを目指し、地域おこし協力隊として移住した鈴木正光さん。(以下、鈴木さん)
鈴木さんが今回のワイン作りに込めた想い。そして、同じ志を持つ仲間達と切磋琢磨し、夢を現実にしようとする様子をSHIMABLO編集部が取材した。
辿り着いたのはフルーツのまち北海道仁木町
前職は神奈川県でIT系の仕事をしていた鈴木さんは昨年の春に仁木町の地域おこし協力隊員として着任し、今年度(2020年)で2年目を迎えた。
地域おこし協力隊としては「農業振興員」として、ワイン用のぶどう栽培からワイン醸造の為の技術の習得を目指し仁木町から委嘱されている。
鈴木さんはサラリーマン時代から、ワインが好きが高じ、多くの週末を利用して、神奈川から長野県まで通いぶどう栽培、及びワインビジネスの研修を繰り返していたと言う。
「ワイン作りは気候がほんとに大切」と目を細める鈴木さんが辿り着いたのは、日本最北のフルーツのまちとも言える仁木町。
夫婦で移住して、ストイックに一年目から葡萄農家やワイナリーにて研修を行う。そして、1年目の年度末を迎える3月の終わりに築50年程の古民家と念願の農地を取得した。
スタート地点に立ったばかりの鈴木さんの目指すところはどこなのか?
ゼロからオリジナルのワイナリーを作りたい
「初めての農園は大変ですよ! どこで手を抜いて良いかわからないから何でも全力でやっちゃう笑」と健康的に日焼けした鈴木さんが話す。
そんな鈴木さん夫妻が現在、地域おこし協力隊員として任期中に始めた農園、“North Creek Farm”
「余市川の隣にある農園だから“North Creek Farm”単純でしょ?」と、少し恥ずかしそうに教えてくれた。まっすぐに並んだ苗木と優しくそれを見つめる鈴木さんの笑顔が印象的であった。
余市川流域の扇状地で河原が地層にあるため水捌けが良い。よって果樹園としては、好立地であると言うが、 購入した農地には、サクランボやぶどう用のハウス、その他に数十本の樹木が残っており、一年目は1.3haの農地の開墾をしたと言う。
想像しただけでめまいがする作業工程だが、「地元の人たちが、ハウスの解体や薪用に使うために伐採、伐根をしてくれました。それがきっかけで交友も深くなったんで結果ラッキーでしたよ!」と飄々と話した。
この夢いっぱいの農園に、今年は2200本の苗木を植えた。そして、来年は苗木2000本程新たに植える計画がある。ビジネスにするならワイン1万本を目指したいとのこと。正直ワインを何も知らなかったSHIMABLO編集部もそのひたむきさに度肝を抜かれた。
そんなゼロからのスタートを切った鈴木さんが最終的に目指すのは、ワイン葡萄の栽培と並行して醸造まで行えるワイナリーを作り納得行くものを流通させたいと語った。
同じ夢を持つ仲間達と
ここで鈴木さんと同様に仁木町の地域おこし協力隊として活動する2人を紹介したい。
福光賢治さん(以下、福光さん)四国香川県出身で、昨年2019年4月に東京から移住。以前は教育系サービスの会社に勤めるサラリーマンであった。
国内外のワイン産地を訪問し日々栽培から醸造までを考える。実際に農業に関わると思ったようにいかないことの方がとてつもなく多いが、長期的な目線で理想の農地を探している。
福光さんは、ロジカルに言葉を選び、虎視眈々と未来を見据えているように思えた。
現在、取得を検討中の農地があり、SHIMABLOも福光さんの次の一手に注目している。
そして、大野崇さん(以下、大野さん)東京都出身で福光さんと同様に2019年4月に移住。
元々ワインの輸入会社で働いて、その人脈を生かし、ワインに限らず仁木町の物産の販路拡大にも貢献している。
インポーター時代に海外の生産者と話す機会が多く、葡萄の栽培から醸造がどのようにされているか興味があったことから、一昨年フランスで1年間ワイン作りを住み込みで学ぶ。
運よくワインを作らせてもらう機会があり「『これが仕事にできたらいいな』と思って仁木町の協力隊に応募しました。」とその経緯を隠すところなく話してくれた。
いずれにせよ便利さを追求し画一化された都市部にはない、フルーツのまちと呼ばれるほどに資源を多く秘めた北海道の片田舎である仁木町に、個々のビジョンとキャリアを持ちこみ移住した二人からも今後目が離せない。
優しい瞳の奥にワイン作りにかける情熱を見た
ワイン作りの「ワ」の字も知らないSHIMABLO編集部に鈴木さんが優しく言ってくれた一言が非常に印象的であったので掲載したいと思う。
「まぁ何が正解かってのもないのだし、作りたいものを自分ができる範囲で作れば良いんじゃないですかね!」
決して投げやりな言葉ではない。
「ワイナリー建設はピンからキリまで、ほんといろんなパターンがあるんです。まぁ、どういったワインを作りたいかで設備は変わってくるし、大手ならウン千万かけて立派な設備を建てて温度湿度管理が出来るわけだし、チープな設備で良いのならワイナリーだけでも納屋を改装して数百万とかね笑
もちろん、2、300万とかの世界ではないと思いますが、フランスでは『自然がワインを作る』と言う理論でグラビティ…。そう!重力を使ってブドウを落とし、足踏みで搾って勝手に発酵して下さいって農家もいるくらいだから笑
だからね、やり方はほんと色々。」
「どこまでこだわるか」「どういったワインを作るか」あり来たりな言葉にはなるが、ワイン作りの奥深さをこの取材で見つけることができたような気がする。
そして、鈴木さんの優しい瞳の奥にワイン作りにかける情熱を見た。
地域おこし協力隊の可能性
そもそも地域おこし協力隊とはどのような制度か?
その目的を、総務省の公式ガイドラインを以下に引用しご紹介いたします。
人口減少や高齢化等の進行が著しい地方において、地域力の維持・強化を図るためには、担い手となる人材の確保が特に重要な課題となっている。 一方、生活の質や豊かさへの志向の高まりを背景として、豊かな自然環境や歴史、文化等に恵まれた地域で生活することや地域社会へ貢献することについて、いわゆる「団塊の世代」のみならず、若年層を含め、都市住民のニーズが高まってい ることが指摘されるようになっている。
人口減少や高齢化等の進行が著しい地方において、地域外の人材を積極的に誘致し、その定住・定着を図ることは、都市住民のニーズに応えながら、地域力の維持・強化にも資する取組であり、有効な方策と考えられる。
総務省HPより抜粋
2020年現在、全国で5600人を超える地域おこし協力隊員が、その地域特有の価値や特色に沿って活動を開始している。
その中でも仁木町はフルーツのまちとして、フルーツを特産品とした自由度が高い活動フィールドになっており、自治体は三年の任期を終えても仁木町へ定住できるよう就農サポートも行っている。
仁木町は、フルーツのまちとして気候は北海道のなかでも理想的。本州よりも台風の被害が少なく、病虫害も湿度の関係上で有利な地となっていると云う。
一般的に、新規就農者にとっては、農地の獲得や土地の選定はハードルが高いものとされており、今回取材させていただいた“North Creek Farm”は、地域おこし協力隊として幸運にもハードルをクリアしていた。
仁木町のホームページ
http://www.town.niki.hokkaido.jp
編集後記
まず、2020年現在のコロナ禍真っ只中の取材協力を潔く受けてくださった、仁木町役場企画課、地域おこし協力隊員の皆様に、心より感謝いたします。
地方創生を担う地域おこし協力隊を取材すると言う試み。今回の取材では、本当に(お世辞抜きで)情熱的と言うか、野心的と言うのか、、兎にも角にも言葉にはできない何かをしっかりと感じ取れました。
私個人的にもかなり見習わなくてはいけない事が多すぎて、記事を書きながら背筋を正していましたよ笑
特に今回メインに取材させていただいた鈴木さんの言葉
“まぁ何が正解かってのもないのだし、作りたいものを自分ができる範囲で作れば良いんじゃないですかね!” この言葉に突き刺さるものがあり、ハッと自分のミッションステートメントを見直すきっかけにもなりました。
編集後期で書くのもアレですが、鈴木さん達も正直 “100%ワイナリーを実現させられるかわからない” と仰っていました。
しかし、勝手ながら取材を行った後の車内にて「今後もあの4人を追い続けよう!」と決心した次第でございます。
きっと数年後には、鈴木さんたちが作った素晴らしいワインを味わえる気がしてならない。仁木町にて、ワイン作りへの轟々と燃える情熱を感じ始めた者の1人として心からそう思った。
様々な経験を積んだ仲間たちが同じ志で互いにシナジーし、仁木町の大地にタネを撒き、いつか大きく開花する日を、SHIMABLO編集部は待ち遠しく思っているのでした。
SHIMABLO 編集部
Director : 刑部広平