- 目次 -
Toggle田舎暮らし。すべてが揃った都市部から街頭もまばらな北海道南西部に位置する島牧村へ移住を決めた若者がいる。
彼が選んだ道は地域おこし協力隊。
3年という長いようで短い任期に何を目指し、どのようなゴールを見据えているのか?その自然いっぱいの土地での暮らしにフォーカスを向け、 地域おこし協力隊を応援するSHIMABLOがその暮らしと情熱を発信する連載の第2回。
−2020年8月某日
今回お話を伺ったのは2018年6月から島牧村で持続可能な生活を目指し、地域おこし協力隊として移住した平岡譲さん。(以下、平岡さん)
平岡さんが持続可能な暮らしに込めた想い。そして、同じ志を持つ仲間達と切磋琢磨し、夢を現実にしようとする様子をSHIMABLO編集部が取材した。
日本最北で最大のブナの原生林が人々の暮らしを創り出す島牧村へ
すでに島牧村に移住をしてから3年目になる平岡さん。地元の高校を卒業してから札幌市の水産加工会社へ就職し2015年に会社が倒産。
しだいに農業に関心を持ち、現在はここ島牧村に地域おこし協力隊として2018年6月から「農業振興員」として、移住した。
持病の慢性的アトピー皮膚炎が悩みで体に優しいと言われるオーガニック食品に興味を持ち出してから、徐々に農業と言う生業に興味が出てきたと言う。
本格的に農業を学び出したのは、26万部のベストセラーとなった『奇跡のリンゴ』の主人公、木村秋則さんの農学校に入学してからだ。
ここ島牧村は農協が存在せず、自然に寄り添った暮らしのとなりに「自給」と言うものがほぼ必然的についてくる。
ある種の自由的農業ができる場所であり、日本全国を見渡しても希少と言えるのではないだろうか?
島牧村は漁業が中心の小村だが、
道南最高峰の“狩場山”から日本最北、最大のブナの原生林が創り出す、豊富な水源を有する。
森林面積が村の半分以上を占めており、その保水力たっぷりのブナの森から栄養満点の水が小沢になり、次第にあつまり、ひとつの大きな流れになる。
そして、限りなく透明な日本海に帰るのだ。
結果、北海道屈指の好漁場が多数点在する場所である。
この豊かな自然が織りなすオアシスで平岡さんの暮らしに密着した。
ひとつのWEBサイトが背中を押してくれた
そんな平岡さんが島牧村へ移住を決めたことのきっかけにとBIASTRA(ビアストラ)というWEBサイトがある。
BIASTRAは自然循環をテーマにし、リレーインタビューを通じて本質を追求する「食」のメディアでSHIMABLOでもお馴染みの面々の取材記事を掲載している。
そんな記事なかで平岡さんが最もリスペクトする『さくらの咲くところ』代表の吉澤俊輔さん(以下、吉澤さん)
吉澤さんが大切にしている自然のエレメントに感化され、島牧村の情報を調べているときに地域おこし協力隊という制度を知ったと言う。
札幌での暮らしが長かったので、好奇心も後押しして地域おこし協力隊へ応募。
胸を躍らせ、未開の地へ単身移住することに至ったが、苦悩も多かったと言う。
オーガニック家庭菜園。理想の暮らしを追求する
農業をしたいと言う気持ちで島牧村に移住した平岡さんだが、農を生業にすることの難しさを痛感したと言う。
特に自己資金が十分準備できない中での就農は厳しいものがあり、農地を獲得し、大規模に農作物を作付けするには、大掛かりな農機や、販売先の開拓が必須で独り立ちするまで厳しいものもあるとのこと。
そこで、目をつけたのは生業ではなく、家庭菜園レベルの農園だ。
環境にも、身体にも優しいオーガニックで、安心安全な作物を手塩にかけて作り暮らす。
農業に関心を持ち出したきっかけを見直し、「農的暮らし」というジャンルに少しづつ生活様式を変えていこうと思ったと言うのだ。
これは、70年代からの日本国における高度経済成長、
それが起こした資本を中心にした大量生産などの効率化経済に逆行し、昔ながらの“古き良き日本の暮らし”を再現すること。
つまり、なんでも金さえあれば揃う都会的な暮らしからの脱却。現行の暮らしにパラダイムシフトを起こし、
雄大な自然に寄り添った、お金だけでは実現できない暮らしに価値を見出し、豊かな心で生活することを心がけている。
次のステージは環境保全型の自伐型林業だった
平岡さんが「農的暮らし」にシフトしてから注目し、新たに取り組んだことは“林業”であった。
単純ではあるが、農的暮らしをするにあたり、古くから日本の営みである『田んぼを耕し、木を切る』
これが、当たり前だった時代の良いところだけをなるべく取り入れるようにしている。
確かに、SHIMABLO編集部がイメージする農的暮しも、まるで日本昔ばなしのような世界観で、『おばあさんは川へ洗濯に、おじいさんは山に芝刈りへ』がデフォルトだ。
平岡さんは、環境保全型と言われる「自伐型林業」に価値を見出し、積極的に学び、実践している一人である。
「すべて伐採して禿山にするより、よーく山を観察して一本一本の木を切るタイミングを見て切るようにしています。
今後人類が自然の恩恵を受けて生きて行くには、これがベストかな?と思ってね。
おそらく、人間の本質として何千年も何万年もそうやって生きてきたんだから。」
決して、慣行の林業が悪ではなく、時代の流れ(少子高齢化、林業の担い手不足)から山を育てながら、木と寄り添った生活ができる自伐型林業に可能性を見出している。
現在は、山を借りて道付けなどの管理業を行いながら、その副産物である大木を村内で消費する薪木として販売もしている。
しかし、半永久的に使える木材という形で売り出すため、小規模製材業も勉強中だという。
平岡さんが自然に寄り添った形で、自ら選び、こだわりを持って伐採した木材は、今後付加価値が生まれそうだ。
地域おこし協力隊の可能性
そもそも地域おこし協力隊とはどのような制度か?
その目的を、総務省の公式ガイドラインを以下に引用しご紹介いたします。
人口減少や高齢化等の進行が著しい地方において、地域力の維持・強化を図るためには、担い手となる人材の確保が特に重要な課題となっている。 一方、生活の質や豊かさへの志向の高まりを背景として、豊かな自然環境や歴史、文化等に恵まれた地域で生活することや地域社会へ貢献することについて、いわゆる「団塊の世代」のみならず、若年層を含め、都市住民のニーズが高まってい ることが指摘されるようになっている。
人口減少や高齢化等の進行が著しい地方において、地域外の人材を積極的に誘致し、その定住・定着を図ることは、都市住民のニーズに応えながら、地域力の維持・強化にも資する取組であり、有効な方策と考えられる。総務省HPより抜粋
2020年現在、全国で5600人を超える地域おこし協力隊員が、その地域特有の価値や特色に沿って活動を開始している。
島牧村は、地域おこし協力隊の個人を尊重し、活動内容のビジョンさえ持ちいれば、比較的自由度が高くやりたい事が実現しやすいと言えるところが魅力的だ。
ピンチはチャンスとよく言うが、ふるさと納税の寄附金額は全道最下位。
裏を返すと国内EC化率が高まり、通販需要が右肩上がりの今、北海道産ブランドを用いて、商材開発に力を入れることによって結果は比較的容易に出る環境と言える。
そこには大きなビジネスチャンスがあると思う一方、平岡さんのように資本力に左右されず、自然豊かなフィールドで豊かな生活もできるところだ。
いずれにせよ都市部からの移住需要が高まる今、住居問題、雇用問題などの懸念点も数多く残るが、しっかりとしたビジョンと行動力をもてば活躍できる自治体だと思っている。
https://www.vill.shimamaki.lg.jp
編集後紀
釣りが趣味の私が、昔から休暇のたびに通い詰めた島牧村は、
出向くたびに苦楽も与えてくれ、酸いも甘いも経験したフィールド。
そんな島牧村。
いくつも北海道内の自治体に足を運んだが、自然環境については本当に豊かな場所です(真顔)。
「島牧=釣り」という認識だった私ですが、ここだけの話で知名度としては思ったよりも高くなかったんですよね笑
今回取材させていただいた平岡さんは生粋の道産子でありながら、島牧村の存在を知らなかったと言います。
まぁ、だからこそこれだけの「自然環境」が保たれているのかなぁ。と思ったりしますが、島牧村に隣接する、寿都町がいま「核のゴミ最終処理施設誘致に立候補」した問題が各メディアを騒がしていますね。
「トイレのない高級マンション」とも比喩されていますし、個人的な意見ですが、私も大反対です。
今回の記事でも書きましたが、“資本を中心にした大量生産などの効率化経済に逆行し、昔ながらの“古き良き日本の暮らし”を再現すること。”
実は、この表現自体かなりジレンマがあるのも確かだが笑
そもそも、バブル崩壊、リーマンショック、大震災、コロナ禍
とてもじゃないけど今の資本主義経済はそんな大きな衝撃にめちゃくちゃ弱い。
「こりゃヤベェ、、」と今の資本主義に疑問に持つ人たちが一定数増えたとしても環境の変化への抵抗力が強すぎる。
その結果、いまだ誰にも「やめられない止められない」状態が続き、破滅への階段を昇るだけと個人的には思う。
豊かな環境を壊す壊さないの前に、ほんとにそれで良いのか?立ち止まり足下を見直すこと。
それをリードする絶対的な何か(誰か)が実は平岡さんのような暮らしをしている人たちだったりするのだろう。